8回目となる特別講座は『大人の弘道館2』。前回大好評だった佐賀ん酒に続く第2弾で、今回は嬉野茶がテーマです。こんなにも身近でありながら、意外と知らないお茶のこと。講師には、無農薬・減農薬で茶を生産する副島園4代目園主・副島仁さんをお迎えし、佐賀が誇る名産品「嬉野茶」を深掘りしました。
最近の弘道館2では恒例となったオンライン講座ですが、今回はちょっと趣が違います。題して、お茶も知識も味わえる「飲むオンライン講座」。配信会場は嬉野の温泉旅館で、仕事と休暇を組み合わせたワーケーションができる和多屋別荘です。受講者は全国各地からご応募いただいた約100名の皆さんで、事務局から事前に嬉野茶を発送し、当日は急須や湯飲みなどを揃えて画面の前でスタンバイ。つまり、茶の歴史や文化を学びつつ、副島さんに美味しいお茶のいれ方を教わって、みんなで一緒に嬉野茶を味わおう!という試みです。
まずは、お茶の歴史や嬉野茶について教えていただきます。そもそもお茶は、臨済宗の開祖・栄西禅師が中国から茶の種を持ち帰り、神埼市脊振の霊仙寺に蒔いたのが日本のお茶栽培の始まりと言われています。昔のお茶は薬として用いられ、身分の高い人の飲み物でした。そんなお茶を庶民たちも気軽に飲めるように、喫茶の風習を広げたのが佐賀出身の高遊外売茶翁です。まさに佐賀は、お茶の歴史と深い関係があるといえるでしょう。
嬉野茶は、1504年(室町時代)に明から渡来した陶工が、釜炒り茶の製法を伝授したのが始まりで、今年でなんと517年目。釜で炒った伝統的な製法の「釜炒り製玉緑茶」と、蒸気で蒸してまろやかな甘みがある「蒸製玉緑茶」の2種類があり、受講生の皆さんには蒸製をお配りしました。
さあ、お待ちかねのティータイムです。副島さんが用意してくれた茶葉は、上品な甘みを感じるランクが高いお茶なのでお湯の適温は60~70度。お湯を入れた湯飲みを手に持てるくらいが目安ですが、熱々のお湯からでも美味しくいれられる”裏技”を教えていただきました。「沸かしたてをいれたポットのお湯の温度は約90度で、これをそのまま急須に注ぐと甘みが飛んでしまいます。まずは、ミネラルウォーターや浄水器の水を飲みたい量の3分の1くらい急須に入れて、それからお湯を注ぎます」と副島さん。画面の向こうの皆さんも、副島さんと同じ手順でお茶をいれ、チャット欄には「美味しい!」「とろんとして、まろやかで美味しい」など、嬉しいコメントであふれました。「美味しいお茶をいれるために、茶葉の量やお湯の温度、抽出時間に気をつかいます。相手のことを思って、時には自分を思いやりながらいれるお茶は日本人の美しい文化、心につながっていると思います」と副島さん。チャット欄に寄せられた質問にこたえる形で、美味しいお茶の見分け方やお茶の味の表現方法、嬉野茶が美味しい理由についてなどお話もどんどん広がっていきました。
副島さんは、生産だけでなく茶葉の販売も手掛け、時には自らお茶をいれて提供するという、最先端のスタイルで嬉野茶を発信しています。代表的なのが嬉野茶・温泉旅館・肥前吉田焼といった、嬉野の伝統産業を融合させたプロジェクト「嬉野茶時」。それぞれの後継者たちが協力し合って、嬉野茶が主役の食事会や、若手茶農家が自らの手でいれて接客する喫茶など、さまざまな企画を打ち出しています。都市圏の企業とのコラボ企画も多数ありますが、「これからは一杯のお茶を求めて旅が計画されるような、嬉野に来ていただく企画を打ち出していきたい」と副島さん。茶畑のなかに嬉野茶を楽しむ茶空間を演出したり、宿泊のお客様に一人の茶農家がつき、滞在中のお茶の世話をする茶泊を提案したり、さまざまなストーリーとともに嬉野茶の魅力を発信していく予定です。
恒例の佐賀弁メッセージは「まあ、お茶でも飲まんね」、とホッとするようなひと言。いい時もそうでない時も、お茶は飲む人に寄り添って、その場の空気を和ませてくれます。配信終了後、講座の感想をお聞きしたところ、「100名の方と同じタイミングで、同じお茶を飲めたのはオンラインならでは。リアルだとできなかったので非常に良い経験だったし、画面越しに皆様の表情を見られて、コメントもたくさんいただいて嬉しかったです」と副島さん。急須でお茶をいれる文化が薄れつつあるなかで、参加者の皆さんは嬉野茶の美味しさとともに豊かな時間を実感できたはず。メンソール感のある余韻に包まれながら、佐賀の茶文化と嬉野茶の奥深さを知る貴重な講座となりました。
副島園 四代目園主。静岡県の国立茶業試験場で学び、東京の茶問屋で修業したのち嬉野に戻って茶農家に。安全で美味しいお茶を直接お客様に届けるため、無農薬栽培・減農薬栽培による自家直売に切り替え、2010年には佐賀県農業賞、最優秀賞を受賞(業界初)。2016年に発足した、嬉野茶を広めるプロジェクトチーム「嬉野茶時」の統括役員も務める。