17時間目

「好きこそ物の上手なれ学」

-キミが好きなことは、世界につながっている-

オンデマンド講座(フルバージョン)
 
40分版

  • 講師:大谷桃子先生(車いすテニスプレ-ヤー/かんぽ生命所属)
  • 日時:2022年8月7日(日)
  • 会場:グラスコート佐賀テニスクラブ

講座レポート

17時間目の講座のテーマは「好きこそ物の上手なれ学」。講師にお迎えしたのは、車いすテニスプレーヤーで、2021年東京パラリンピックで銅メダルを獲得した大谷桃子選手。栃木県出身ですが進学先の西九州大学(神埼市)で車いすテニスを始め、佐賀を拠点とするトップアスリートとして県民栄誉賞も受賞されました。挫折を乗り越え、好きなことにひたむきに向き合ってきた姿勢や、大谷選手の生き様に触れていきます。

毎回、講師ゆかりの場所を会場にしていますが、今回はもちろんテニスコート!室内コートとはいえ、開催は夏まっさかりの8月上旬。暑いなか、マイラケットを持参した学生たちを中心に、受講生と観覧者を含め30名が参加してくれました。

前半は、お楽しみの車いすテニス体験です。残念ながら大谷選手は首のコンディションの状態でラケットを振れないため、彼女を世界トップクラスのアスリートへと育てた古賀雅博コーチがデモンストレーションを担当。西九州大学の学生たちがサポートボランティアとしてお手伝いをしてくれました。大谷選手は、「ラケットを持って車いすをこぐとスピードが変わる(遅くなる)」、「手だけでなく体を前に倒しながらこぐとスピードが出る」など、ラケットの持ち方から打ち方のコツまで、さまざまなアドバイスをしてくれました。

現役テニス部の受講生が多かったものの、ラケットを持って車いすをこぐ難しさや、視点と打点がいつもと全く違う感覚に悪戦苦闘。打つのを意識しすぎると、車いすの操作を忘れてしまい、ボールとの距離感がうまくつかめません。実際にやってみることで、車いすテニスの難しさと面白さを知る貴重な経験となりました。

後半は、いよいよ大谷選手自身を深掘りしていきます。実は、車いすテニスを始めてまだ6年。この競技歴で世界と闘えるまでに成長できたのは、車いす生活ではなかった小学校3年生から高校生まで、テニス中心の生活を送るほどテニスが好きだったから。それも、全国高校総体に出場するほどの実力でした。

大谷選手が車いす生活を余儀なくされたのは、スポーツトレーナーを志し、東京の専門学校に進んだ直後で、病気が原因でした。「引きこもってしまって、その頃の1年くらいは記憶がありません。そんな私をみかねて、父が車いすテニスの試合会場に連れて行ってくれたんです」。間近で見る車いすテニスに、こんな世界があるんだと親近感をおぼえたといいます。そしてこれが、大谷選手の新たな人生が動き出すきっかけになりました。

「車いすテニスをしたい!というよりも、まずは社会に出るためにはどうしたらいいんだろうと考えました。そして就職するには大学へ行こうと」。自分がなりたい未来の姿を思い浮かべながら、それを実現するためにやるべきことに取り組む日々。大好きだったテニスをもう一度始めるのは自然な流れで、競技デビューからわずか数ヵ月で全日本選手権にエントリー。まさに、「これだ!」と決めたら、すぐに行動に移すのが大谷選手らしいところ。慣れないチェアワーク(車いすの操作)にとまどいながら、これまでのキャリアと試合を有利に運ぶ展開力で、初出場・準優勝という結果にも驚きです。日本車いすテニス界の新星として一躍注目を集め、翌年には海外ツアーに参戦。古賀コーチとの出会いも大きく飛躍する転機になりました。

大谷選手が語るエピソードなかで印象的だったのは、「どんなときも自分の責任で物事を決断してきたので、大切な分岐点で道を間違わずに進んでこられた。あの時、ああすれば良かったという後悔は一つもない」と、自信をもって断言されたこと。そして、「私は人に恵まれている。困ったときに、手を差し伸べてくれる人がいてくれたから今の私がいる」とも。多分それは、大谷選手が車いすだからではなく、彼女の人柄があってこそ。明るさやひたむきさ、芯のある強さが周りの人たちを惹きつけているんだと感じました。

受講生たちの質問に大谷選手が答えるコーナーでは、「自分の好きなことがいっぱいあるのはいいこと」、「もしも誰かにバカにされたとしても、一人でも応援している人がいるなら頑張ってほしい」など、自分の経験もふまえながらアドバイスを送りました。恒例の佐賀弁メッセージでは、「私はずっと佐賀にいたいと思うので、見かけた際には声をかけてください。機会があったら車いすテニスをしましょう!」(※見事な佐賀弁に訳されたメッセージは動画で確認を)と呼びかけ、会場の参加者にサインボール(限定3個)がプレゼントされました。

その1個を手にしたのが、部員のほぼ全員が参加したという佐賀西高校の女子テニス部。部員11人を代表して、2年生の碇湖々美(いかりここみ)さんが、「好きな事を突き詰めるとき、“苦しいことが8割、やる気が2割”っていう言葉が印象に残っています。好きなことでも、やり続けるには苦しさが多いんだと学ぶことができました。サインボールは部室に飾って、みんなの励みにします!」と、嬉しそうに話してくれました。

講座を終えた大谷選手は、「ここまでアットホームな感じでやらせてもらったのは初めてで、私が一番楽しかった。普段話したことがないエピソードまで引き出してもらいました。悩んだとき、困ったときに、思い出してもらえるきっかけになれば嬉しいです。みなさんの今後の活躍に期待しています」と感想を語ってくれました。

好き=楽しいことばかりではないけれど、コツコツ努力してきたことは、ちゃんと未来につながっていくんだと実感できる講座となりました。そして、好きなことを好きであり続けることは、生きることの原動力になるんだということも。
「あなたの好きなことはなんですか?」
夢中になれる“好きなこと”が、あなたにも見つかることを願っています。

 

告知動画

講師プロフィール

大谷桃子/プロ車いすテニスプレーヤー(かんぽ生命所属)

大谷桃子

小学生のころからテニスを始め、高校在学中にはインターハイに出場。高校卒業後、病気により車いす生活に。父に勧められたことをきっかけに2016年から車いすテニスを始め、2018年にはアジアパラ競技大会シングルスで銅メダルを獲得。一躍、日本代表候補に躍り出た。2020年4月かんぽ生命入社。2020年全仏オープンでは、初出場ながらシングルス準優勝の快挙を達成。東京2020パラリンピックでは、女子ダブルスで銅メダルを獲得。また、2022 BNP Paribas World Team Cup ポルトガル大会(車いすテニス世界国別選手権)にて、日本女子の初優勝を達成。