特別講座18

「正解のない問題に向き合う学」

オンデマンド講座(40分版)
 

講座レポート

今回は弘道館2初の先生向け特別講座で、小学校から高校までの教員と、教員を目指す大学生34人が参加しました。「正解のない問題に向き合う学」という、難しくとも面白いテーマのナビゲーターとしてお迎えしたのは、教育現場で500人以上の子どもたちと向き合い、現在は佐賀大学で未来の先生を育てている松信尚子先生。そして、弘道館2のお目付け役で、企業や学校などを相手に年間30以上のクリエイティブ研修をこなす倉成英俊先生です。教育界と教育外の立場から、正解のない問題への向き合い方を一緒に考えていきます。

ちなみに会場は、松信先生の「自由な発想ができて、日常が忘れられるような場所で!」というリクエストにお応えして、佐賀市の街なかにありながら、築100年以上の古民家をリノベーションしたレンタルスペース。カフェなどが併設されたおしゃれ空間で、ワクワク感も高まります。

現代は、正解のない時代と表現され、自分なりの答えを出す重要性が説かれていますが、そもそも“正解のない問題”とはどんなものなのでしょう?まずは、ウォーミングアップとして「10文字以内で自己紹介をしてください」というお題にチャレンジ!漢字を使うのも、自分の名前を入れるのもOK。約2分という時間制限と字数制限のなかで出てきたのは、

「ぼくはくぼ」
「動物映像漫画甘好木村」
「自己紹介は苦手です」

など。実はこれ、単なる自己紹介ではなく、広告会社の疑似体験してもらうもの。予算や制作期間などいろんな制約があるなかで、伝えたいことを伝えるのが広告であり、10文字自己紹介も同じこと。制約があるからこそ、人をひきつける表現が生まれるのです。

会場の雰囲気が和んできたところで、次にチャレンジするのはクリエイティブテストと呼ばれるもの。“テスト”といっても、「1週間が8日に増えたら、その1日で何をしますか?」や、「朝起きたら蛇になっていました。良かったこと、悪かったことを書きなさい」など、遊び心が満載で解く人の発想力が試される問題のこと。倉成先生の「こういうのを子どもの頃からもっとやったらいいのに」という言葉を打ち合わせ時に聞いた松信先生は、教育学部の学生相手に自作の問題を出題したそうで、同じ問題を弘道館2の受講生たちにも考えてもらいました。

問題
「(架空の話)このたび、新しい科目が小学校に導入されました。これはとても斬新で、全世界が注目しています。さて、何という科目でしょう。」

会場からは、「どっか行こ科」、「ストレス発散科」、「こんなこと知ってます科」、「お休み科」 など、自由な発想でさまざまな答えが出てきました。正解がないからこそ、どんな答えでもOKですが、好奇心をくすぐられ、想像力をかきたてるような問題であればあるほど、面白い解答が引き出されます。

倉成先生は、あらゆる分野の“正解のない問題”をリサーチして収集する達人で、自らも数々の問いを出題してきました。例えば、高校生を相手に「校則の最後の1行に書き足す権利をあげます。何を足す?」、ある企業の研修では「1時間半あげます。人生で初めてのことを1つなにかして、写真を一枚撮ってプレゼンしてください。」など。

そんな倉成先生が、問題づくりのコツを分かりやすく解説。なかでもユニークだったのが、「ベスト・キッド方式」のお話し。映画『ベスト・キッド』は、いじめられっ子の少年が空手を通して成長していくストーリーですが、師匠に課せられたトレーニングはワックスがけやペンキ塗りなど「何これ?」というものばかり。雑用しかやっていなかったはずなのに、いつの間にか技が身についていた!というから驚きです。つまり、何を学べるか、何を教えているかを最初から言わない問題を倉成先生が「ベスト・キッド方式」と名付けたのです。ちなみに、大喜利ではないので、ただ面白いだけの問題は論外。好奇心をくすぐる面白さはありつつも、出題の裏側に意味がなければいけません。「何を教えるか?」というテーマを決めたうえで、「どう教えるか?」を面白く仕立てることが大切なのです。

それでは、正解のない問題づくりにチャレンジです!テーマは自由で、100分以内(ランチ時間込み)にできることなら、室内だけじゃなく、外に出るのもOK。みなさんが考えた問題は、

「500円で会場のみんなを笑顔にする物を買ってくる」
「こんな写真は、世界中で私以外誰も撮らないだろうなと思う写真を1枚撮ってくる」
「2年後に佐賀の商店街にジャスティンビーバーが立ち寄るお店を作れ」

など面白そうなものばかり。その中からナビゲーターの二人が選んだのは、「自分の苗字の文字を街から見つけて撮影してくる」というお題。受講生たちは、3人1組のグループになって、スマホ片手に佐賀の街なかに散らばっていきました。

さあ、お楽しみの発表タイム!スクリーンに写真を映し出して、代表者が1分間のプレゼンを行いました。駅にある路線図から3人の名前をピックアップしたグループや、看板などから漢字やアルファベット、平仮名・カタカナを一文字ずつ撮影したグループ。文字そのものではなく、文字を連想させる風景を組み合わせたり、床に寝転がって人文字を作ったり、本当にさまざま。単に文字を組み合わせるだけじゃ面白くない!と、ひねりを加えたグループもあり、「その手があったか!」と感心する場面もたびたびありました。

スタート時は緊張気味だった受講生の皆さんも、最後の方はリラックスモード全開!松信先生は、「正解のない問題に向き合う大前提は、リラックス状態であること。みなさんが楽しくされている様子は、学校の子どもたちに見せたい姿です」と語り、恒例の佐賀弁メッセージでは「日常は大変でしょうけど、ちーとゆとりと、遊びとすればよかじゃなかね」と呼びかけました。
倉成先生は「自分だけの考えを出すとは面白かよ」、「正解がない=自分だけの答えを出すということ。それを面白がれる社会になるとよかですね」とメッセージを送りました。

小学校教員歴5年目で弘道館2に初参加の木村美貴さんは、「最初は緊張していましたが、ナビゲーターのお二人や参加者の皆さんの雰囲気がよかったので、自由にのびのびと自分の考えを発信することができました。とても心地よかったし、楽しかったです」と充実した表情をみせてくれました。

講座を終えた松信先生は、「みなさんの表情が、だんだんとほぐれていく様子が前から見ているとよく分かりました。難しかったと思いますが、教員には経験できないこと、新しい視点が大事だということを私も学ばせてもらいました。今回の講座は、職員室の風通しを良くしたいという時にも役立ちそう。みなさんが考えた問題はぜひ共有して、いつかどこかで活用したい!と思いました」。倉成先生は、「10文字自己紹介の時から、今回は面白くなる予感がしていました笑。 みんなで取り組む課題を当日に決めるなど、不確定要素が多い講座でしたが、正解のない問題って出すのも、解くのも面白いよね!っていうのが伝わったと思います」。

学びを楽しみ、面白がる大人が身近にいるだけでも、子どのたちの未来は大きく変わっていくはず。子どもたちのやる気スイッチならぬ、面白がるスイッチを押してくれる先生たちがもっともっと増えていくことを願っています。

 

ナビゲータープロフィール

松信 尚子(まつのぶ・なおこ) 先生

1974年、佐賀市生まれ。
子育てと仕事を両立させながら、「心が動く」瞬間を大切にし、長年にわたり小学校教員として子供たちと向かってきました。これまでに担任した児童は500人を超えます。現在は佐賀大学教育学部の准教授として、教員を目指す学生たちを全力でサポートしています。

倉成 英俊(くらなり・ひでとし)先生

株式会社Creative Project Bace 代表。佐賀市生まれ。
電通クリエ-ティブ局にて多数の広告を企画制作後、各社の新事業やプロデュースに携わる。教育関係のプロジェクトも多く、アクティブラーニングこんなのどうだろう研究所設立、弘道館2立案、「伝説の授業採集」(宣伝会議)上梓、早稲田NEO他では講師を務める。2020年Creative Project Baceを創業。