大型台風25号が一過、すがすがしい秋空が広がった翌日、佐賀県立美術館前には受講者や観覧者による長蛇の列が…。
それは今回の講師、メディア・アーティストの八谷和彦さんが、1時間目の講師を務めた画家の池田学さんと陶芸家の葉山有樹さんと開催している『三人展』の会場で、直接八谷先生の講座を受けるため。
ドキドキしながら会場に入場すると、八谷先生がにこやかな笑顔で受講者たちを迎えてくれました。
空間いっぱいに展示された、世界最軽量の自家用小型ジェット機M-02Jにいきなり圧倒された受講者たち。
これは『風の谷のナウシカ』に登場する架空の飛行機・メーヴェの実機で、この実機をつくる「OpenSkyプロジェクト」はなんと企画から完成まで15年を要したと八谷先生。「世の中には変わるもの、変わらないものがあります。インターネット、スマホ、AIなど世界をひっくり返すようなモノはすべてテクノロジーによってつくられたんですよ」と先生は試作、試乗を何度も繰り返し、時間をかけて新しいテクノロジーによってメーヴェを完成させたといいます。
その“世界をひっくり返すテクノロジー”をつくることこそ今回の講座のテーマでもある『破壊的イノベーション学』だとか。
折しも今年は明治維新150年、佐賀藩が先駆けてつくった蒸気機関のテクノロジーが日本中で革命を起こした一因だったのは知っていますよね。
会場をJONAI SQUAREに移し、いよいよワークショップを開始!「今の世の中は50代~60代がつくっている。未来は若者がつくるもの。その自覚が意外と足りないんです」という八谷先生。
ステップ1ではA3の白紙を“履歴書”に見立ててイラストを交えて書く作業。これは“記憶を掘っていく作業”で、東京藝術大学でも行ったワークショップなんだそう。絵もまじえて記憶を書き出すことで、「何が好きで今まで生きて来たかがわかる。イノベーションには自分の好きなことをちゃんと知っておくことが大事」と八谷先生のアドバイスをもとに、受講者たちは黙々と鉛筆を走らせます。
ステップ2では、“自分の好きなことをどんなテクノロジーを使って、10年後にビジネスとして実現したいか”を考える作業。それを叶えるための資金として八谷先生からバーチャルマネー1億円が用意され、受講者たちにも投資用資金として3000万円が配られました(もちろんオモチャのお金)。興味深い発明やビジネスプランを発表した人には、各受講者が投資のためお金を置いていく、という面白い提案に会場は多いに盛り上がります。人気を集めたのは「コケないハイヒール」「メイクのように自分に合った下着を選んでくれるアプリ」「広告をつけた運賃無料のフリータクシー」など個性的なアイデアばかり!
八谷先生からは「今日、投資用資金を得られなかった方は、次への工夫につながるので落ち込むことはないですよ。発明に失敗はつきもの。小さい失敗をしていかないと大きなことはできません。どんどん挑戦して失敗して、恥をかいて経験してほしい」と温かく声をかけていただきました。「いつか夢はかなうという宝くじのような夢は決して実現しない。君たちの中にある夢という種が芽を出せるよう、水や肥料をあげるのを忘れないで。今の延長線上に未来があるんです」と力強いメッセージもくれた八谷先生。恒例の佐賀弁メッセージでは一言「どうでんよかよ。よかごとせんね」。そして「上の人に遠慮せず、大きな責任も負う必要はない。君たちの好きなように自由にやりなさい。君たち若者が未来をつくるのだから」と続けてくれました。
佐賀大学2年の江越未悠さんは、「参加する前は自分が何がしたいのか悩んでいた。妄想を現実化する方法を学べた上に自分が好きなことに確信が持て、未来に希望が見えて来た!」と興奮気味に感想を述べてくれ、その瞳はキラッキラ!講座のサブタイトルにある“2034年”とは、今の中学生が30歳ぐらいになる年。受講者や会場にいたみんなが未来に思いをはせ、ワクワクを共有した楽しい1日となりました。
佐賀市出身。1966年4月18日(発明の日)生まれの発明系アーティスト。
九州芸術工科大学(現九州大学芸術工学部)画像設計学科卒業後、会社勤務を経て、(株)PetWORKsを設立。
作品は機能をもった装置であることが多く《視聴覚交換マシン》や《ポストペット》などのコミュニケーションツールや、ジェットエンジン付きスケートボード《エアボード》やメーヴェの実機を作ってみるプロジェクト《オープンスカイ》など。
2010年より東京芸術大学美術学部先端芸術表現科准教授。