3回目となる『大人の弘道館2』の主役は、佐賀の大先輩である大隈重信侯。2022年の今年は大隈重信没後100年という節目の年で、総理大臣を二度務め、早稲田大学の創設者として誰もが知る偉人を、知られざるエピソードともにご紹介します。テーマは、「大隈重信の超仕事術」と「母・三井子(みいこ)さんの教育」について。ビジネスと子育てという、これまでにない切り口で大隈重信を深掘りしていきます。
佐賀市の大隈重信記念館を会場に、現地受講者とともに、全国から200名以上がオンラインで参加。館内の展示資料や隣接する大隈候の生家をライブ配信しながらお送りするという、これまでにない体験型トークセッションを実施しました。
第一部は「大隈重信の超仕事術」。交渉術と広報術、スピーチを得意とした大隈侯のスキルに迫ります。講師は、弘道館2のお目付け役の倉成英俊さん。実は、ご自身の仕事に大隈侯のスキルを活かしているという実践者。現代のビジネスへの応用については、早稲田大学商学学術院教授の守口剛先生に解説していただきます。
大隈侯の幼名である「八太郎」にあやかって、8つのエピソードから仕事術を読み解きます。例えば、大隈侯が明治新政府で活躍するきっかけにもなった、イギリス公使パークスとの交渉について。当時31歳だった大隈侯は、長崎で外国事務局判事として勤務する地方の役人でしたが、得意の英語を駆使し、相手を優位に立たせない見事な交渉術を見せつけました。まさに、日本の外交が歴史的な転換を迎えた出来事でした。
2人のやりとりから分かるのは、大隈侯の交渉術には現代のビジネスの場で使われる、ロジカルシンキング(論理的思考)とクリティカルシンキング(批判的思考)が活かされていること。150年も前にすでに体得し、実践していたことに驚かされます。パークスとの交渉は、大隈侯を語る上で欠かせないエピソードなので、さまざまな伝記本で読み比べてみるのも面白いかもしれません。
もう一つ興味深かったのは、大隈侯がなりたかった参議への打診を受けたとき、即座に返事をせず、一旦持ち帰り、自分にとって有益な条件を付けたうえで受諾したというエピソード。「ボール(交渉の決定権)が自分にあるときは、持ち帰って条件をつけるのが交渉の基本。当たり前だと思うかもしれないが、今の世の中ではほとんどできていません」と倉成さん。
そんな倉成さんは会社員時代、大隈侯の交渉術を使って、上司から打診された新プロジェクトの立ち上げに条件を提示したエピソードを披露。守口先生は「交渉事は対等な立場で臨む必要があり、対等に持ち込むためには知識が必要」、「自分だけがよくても交渉は成り立たない。じっくり考えて、相手が受け入れられるギリギリの条件を付けることが大事」などと解説しました。「大隈さんのスキルを盗みまくって、ぜひとも皆さんの現場で使ってほしい」と倉成さん。ふるさとの偉人を誇りに思い、勇気をもらうだけでなく、その生き方には現代のビジネスや日常生活でも活用できるポイントがたくさんあることに驚きました。
第二部は、偉人を育てた「伝説の母・三井子さんの教育」について。講師は、佐賀の歴史研究家・末岡暁美先生と、現代の子育てについて解説をしてくれる育児メディアHugKum編集長の村上奈穂先生(東京からオンラインで参加)です。
小さい頃は泣き虫で虚弱体質だったという八太郎(大隈重信侯)。12歳のときに父親が亡くなり、4人の子どもたちを三井子さんは女手一つで育て上げました。八太郎が藩校弘道館に通うようになると、成績は優秀でしたがとてもやんちゃで、よくケンカをしていたとか。そんな八太郎を心配した三井子さんは「人をいじめてはいけません」、「人が困っていたら助けなさい」など、人生五訓で諭したといいます。村上先生は、「この五訓は現代にもそのまま通用します。5つのうち3つが人とのコミュニケーションに関わるもので、今の教育界のキーワードでもある”非認知能力”の育みにもつながります」などと解説。
大隈侯は、「友を選ぶ大切さを母から学んだ」とも語っています。「三井子さんは、自分の着物を売って、(八太郎の)友達の窮地を救ったこともあります。なぜなら、自分一人では将来世に役立つ人間になることはできず、必ず友の力が必要になるから。だからこそ、友を選ぶ大切さを教えていたんだと思います」と末岡先生。エピソードとともに語られる三井子さんの教育の数々は、意外にも現代に通じるものばかりでした。
質問タイムでは講師陣が全員揃って、受講生からの質問に答えていきました。オンラインのチャット欄には、大隈侯の口癖を真似て「良かったのであーる」など、講座の感想もぞくぞく。受講生の一人として現地参加した、佐賀大学教育学部の和久屋寛教授は「仕事術というキーワードに興味を持ちました。学生たちには教育熱心だった藩(佐賀)で学んでいるんだとよく話しています。今回は知らないエピソードもあったので、ぜひ学生たちにも伝えていきたい」と満足そうな様子でした。
最後に講師の皆さんの感想として、「今日参加したみなさんにとってヒントになるものを、一つでも二つでも持ち帰ってもらいたい」(守口先生)、「自分も子育て中なので、学ぶことがたくさんあった。久し振りに大隈講堂に行きたくなって、佐賀にも行きたい」(村上先生)。末岡先生からは恒例の佐賀弁で、「大隈さんを調べる人はいっぱいおんさっけん、あえて調べんかったけど、ためになることがいっぱいあった。困ったにゃーって思ったときは、大隈重信を学びんしゃい。元気の出てくっよ」と、メッセージをいただきました。
皆さんも、大隈重信侯と母・三井子さんのスキルや考え方を、ビジネスや子育てにぜひ活用してみてください。
早稲田大学商学学術院教授。早稲田大学政治経済学部経済学科卒業。東京工業大学大学院博士課程理工学研究科経営工学専攻修了。博士(工学)。財団法人流通経済研究所、立教大学を経て、2005年から現職。2018年から早稲田大学社会人教育事業室長を兼務。早稲田大学大学院商学研究科長、日本消費者行動研究学会会長などを歴任。専門はマーケティング。
1955年神埼市千代田町生まれ。趣味は歴史散策。著書に『大隈重信と江副廉蔵』(2008年)、『本村製菓文庫 幕末・明治肥前 こぼれ話①~③』(2011年~)。新聞、ラジオ等で佐賀の歴史を紹介。2019年、南里早智子さんとパネル展「激動の時代を生きた佐賀に縁ある女たち」を南里邸で開催。
小学館育児メディア HugKum編集長。2003年、早稲田大学 第一文学部卒業。2006年、小学館入社。『CanCam』『Oggi』で10年間ほどファッションを担当。長女を出産後、育休中に夫のロンドン赴任に同行、 現地で3年過ごす。帰国後「子どもに関わる仕事を!」と児童学習局に異動、2018年に育児メディア 「HugKum」(はぐくむ)を立ち上げ、育児メディア最大級のユーザー数へと成長させた。2021年に編集長に就任。10歳、6歳の二児の母。
弘道館2発起人、株式会社Creative Project Base 代表。佐賀市生まれ。電通クリエーティブ局にて多数の広告を企画制作後、各社の新規事業やAPEC JAPAN2010、東京モーターショー2011、佐賀県有田焼創業400年事業など、様々なプロデュースに携わる。2014年「電通Bチーム」、2015年「アクティブラーニングこんなのどうだろう研究所」を設立。2020年Creative Project Baseを創業。