2017年にスタートして20時間目となる今回は、弘道館2の常連で、佐賀で生まれ育った大学生2人が、自分たちが話を聞きたい大人を講師として招き、ファシリテーター(進行役)を務めるという初の試みです。テーマは「面白い大人学」。ワクワクする人生を生きる大人をお招きし、じっくり話を聞いてみよう!という回で、会場には中学生から社会人まで33名の若者たちが集まりました。
1人目の面白い大人は、遊び学者の原田光先生です。なんともユニークな肩書きですが、いたって真面目に遊びという学問に向き合っている原田先生。「最初に言っておきますがこれが本業です(笑)。遊び学という学問を世の中で当たり前にして、“世界一の遊び学者”になりたい」、「日本という国をもっともっと遊びやすい社会にしたい」など、軽快な口調で遊び学のイロハを語っていきます。
では、遊び学者とは具体的にどんな仕事をしているのでしょうか。メインはイベントの企画・運営で、4年間で100回以上を開催。来場者が2500人という大規模イベントもあれば、みんなで里芋掘り体験をしたり、コロナ禍で居場所や遊び場がなくなった子どもたち向けに日帰り山ごもりキャンプをしてみたり。他にも、リノベーションした空き家でのシェアオフィス運営、アパレルブランドの立ち上げ、遊び学ラジオを毎日配信するなど、まさに多種多様な仕事内容です。
「遊び=行為(楽しく行うもの)だけど、遊び心っていうのは“遊ぼう!”という姿勢。遊び心は誰もが持っていて、これがあれば日常のいろんなものが遊びに変わります」と原田先生。その実例として会場でやってみたのが、受講生数名に協力してもらっての自己紹介。一般的には名前や学校名、年齢、趣味などを言いがちですが、ここに“遊び”を取り入れるのが原田流。4人1組のチーム対抗戦で、お題は「下の名前の頭文字が早い方から、左側から順番に並んで!」というもの。シンプルだけれど、一瞬にして一体感が生まれ、場の空気も盛り上がりました。(ちなみに、勝ったチームには原田先生からガチャガチャのご褒美!)
ゲームをしたり、テーマパークに出かけたり、趣味に没頭する時間も“遊び”だけれど、ちょっと視点を変えれば何気ない日常にも遊びがあふれていることを教えてくれました。
2人目の面白い大人は、夜に開店する“あんこ屋”さん、よなよなあん工房の店主・岡垣貴憲さんです。ちなみに、開店するのは夜は夜でもほとんどが深夜。それでも行列ができる人気店です。「夜中にあんこを売っているのは、昼間に会社勤めをしているから。”〇時に開けます“と、その日にSNSで告知をする、わがまま放題な店です」と岡垣先生。
実は、印刷会社、健康食品会社、薬局など3度の転職で、デザインやマーケティング、製品開発などキャリアを重ねてきました。店の開業は、現在の会社への入社とほぼ同時期。きっかけは、無類のあんこ好き!ということもありますが、迷ったとき、悩んだときは自分がワクワクする方を選んできたという岡垣先生。「ラーメンやお茶漬けのように、飲んだ後のシメで、ぜんざいを食べてもらえるような文化が佐賀にできたらいいなあ、という想いもありました」。
今年で7周年を迎えたものの、最近はイベント出店の依頼が相次ぎ、なかなか店を開けられないという。そんな多くの人をトリコにするあんこを、今回は特別に試食させていただきました。それも、江北町にあるチーズケーキ専門店「ハイウィーク」の協力を得て作られた、弘道館2オリジナルのあんこチーズケーキ。岡垣先生から受講生への手書きメッセージが添えられるというサプライズ付きです。あんこの美味しさはもちろん、岡垣先生の「みんなを楽しませたい!」という遊び心まで伝わってきました。
さあ次は、講師に直接、若者たちが質問する時間です。2人の面白い生き方に刺激を受けたのか、「いつから自分が大人になったと感じましたか?」、「仲間をつくる方法があれば教えて欲しい」など、バラエティに富んだ質問が飛び交いました。そして、受講生たちが事前アンケートで答えてくれていた、「面白い大人ってどういう人?」の回答リストを見ながら、同じ質問を講師2人にも投げかけます。岡垣先生は、「問いの斜め上の回答を持ってくる人。面白い人って、ちょっとズレてて、“こうきたか!”っていうことをしてくる」。原田先生は、「ずるい回答になっちゃうけど面白がらせてくれる人。でも、1対1で話してみると、だいたいみんなに面白いポイントがある。それをなかなか出してくれないだけ」。面白い大人の人生哲学は、まだまだ続きます。
あっという間に講座も終盤。ここで恒例の佐賀弁メッセージ!…といきたいところですが、2人とも県外出身者ということで、いつもの口調で熱いメッセージをいただきました。
「ぼくは若い方と話すとき、自分の人生の主導権を自分で握れるようにした方が楽しいよって言っています。苦しいことがあれば誰かのせいにしたかばってんが、自分の力で自分がやりたいことを大事にして欲しい」(原田先生)
「面白いのには、それなりの努力が必要。ちょっと背伸びをしてみるというか、少しでいいから無理する時間を作ってみるのは大切。そして、できる・できないを初めから決めつけず、いろんな選択肢をテーブルにあげるようにしてほしい」(岡垣先生)
無事講座が終了した後は、“放課後”ということで、希望者が会場に残っての交流会です。今回は講師もファシリテータも、受講生もみんなが自由に歓談するというフリースタイル。緊張気味だった受講生たちも積極的に声をかけて、いきいきと話しているのが印象的でした。佐賀大学一年の森一馬さんは、「近々、学生団体を立ち上げたいと思っていて、お二人の話はとても心に響きました“これでいいんだ!”と共感することも多く、自信をもってこれから活動できそうです」と目を輝かせながら語ってくれました。
今回ファシリテータを務めた二人も、「面白い大人や学生たちが触れ合って、知り合える距離感はきっと佐賀だからできること。こういった場を学生に与えてくれて、自分たちは恵まれていると思います」(佐賀大学3年 園田さん)
「いつもは後ろから見る立場ですが、今回は受講生の前に立って、皆さんのワクワクした様子やキラキラした表情を見られて本当にうれしかった。自分も面白い大人になるために勉強していきたい」(佐賀大学3年 井本さん)
佐賀の面白い大人代表のお二人にも感想を一言ずつ。
「どこまで伝わったか実感はないけれど、メモをとりながら、みんな真剣に聞いてくれた。手書きメッセージは、自分が仕事をするうえでいつも思っていることを書かせてもらった。とくに放課後の自由時間は、みなさんと楽しく話せてよかったです」(岡垣先生)
「すごく楽しかった、それにつきる。放課後の時間にイベントの相談をする学生もいて、熱意がある参加者が多かったので、こういった取り組みがもっと増えてほしい。時間が足りなかったかも(笑)。佐賀には面白い大人が山ほどいますよ」(原田先生)
面白い人生を歩む大人たちが“面白い”の定義を広げてくれた特別な時間。生き方を真似したくなるような、面白い大人文化が佐賀に根付くのも、そう遠くはないかもしれませんね。
佐賀大学を卒業後、印刷会社に就職し企画・デザイン・マーケティング支援に携わる。その後、健康食品の商品開発や商品パッケージの製作・販促など転職ごとにキャリアを重ね、2016年から薬局のグループ会社に勤務。同時期に「よなよなあん工房」を開業し、二足のわらじで活動中。
スポーツ・教育業界からIT企業を経て独立。本業は「遊び学」という学問を世の中で当たり前にすること。遊びに関するイベントを4年で100回以上開催し、書籍『”楽しい”の作り方』を執筆中。夏はほぼ川で遊びの研究に励んでいる。
弘道館2「変学」「伝える力・聴く力学」「仕事と子育てに効く大隈重信学」に参加したことがきっかけで人生や考え方が変わった。現在、誰かの“やりたい”を実現する学生団体「TSUDOIBA」の企画・運営などに携わっている。
今までに「想像学」「破壊的イノベーション学」「変学」などを受講。多面的にアートに興味を持つようになった。現在は、“アートが地域でより身近なものに”を目標にした学生団体「青に彩」を立ち上げ幅広く活動中。