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夏休み恒例の小学生向けの特別講座は、「超飛び級しようぜ!小学生が、大学生になる1日」。弘道館2と佐賀大学芸術地域デザイン学部が、どちらも10周年を迎えることを記念したコラボ企画です。大学のキャンパスで、大学の先生の特別な授業が受けられるまたとない機会に、子どもたちの応募が殺到!80名の定員に600名以上の応募があり、急遽枠を増やして105名の小学生4~6年生が参加してくれました。

300名近く収容できる大講義室は、子どもたちや保護者のみなさんで満席状態!“超飛び級”で大学生になったことを記念して、入学式からスタートです。これから始まる授業に胸を膨らます子どもたちにエールを送ってくれたのは、なんと佐賀大学学長の野出孝一さん。「今日の一日がみんなの人生を変えるかもしれません」というメッセージに、期待がますます高まります。
今回は、学びたいことを自由に選べる大学ならではのスタイルで、7つの授業の中から好きな3つの授業を選んで受けてもらいました。
授業ごとに教室が違ってキャンパス内を移動するので、まさに大学生そのもの。1コマ45分で時間は短いですが、それぞれの分野のエッセンスが詰め込まれ、子どもたちも同席した保護者たちも好奇心を刺激されっぱなし。そんな7つの授業を簡単にご紹介します。
「ドキドキワクワクのコスメ科学」 を教えてくれたのは、今年、佐賀大学に新しくできたコスメティックサイエンス学環の徳留嘉寛先生。コスメを科学的に研究する分野で、今回のテーマは「香り」です。人間が香りを感じる仕組みは、蒸発した香り物質が鼻にくっついて、脳で知覚に変換されたもの。つまり、鼻ではなく脳が香りを感じとっているということ。香りはとても複雑で、人によって感じ方が違うし、大人と子どもでははるかに子どもが嗅覚に優れているそうです。
そんな子どもたちに、名前を伏せた3つの香りをかいでもらいました。「色のイメージは?」、「どんな気持ちになる?」など印象を聞いてみると、あちこちからいろんな感想が飛び交いました。後半は、徳留先生がコスメ研究にいきついたお話も。「安定した人生よりも冒険を選ぶ!」がモットーの徳留先生は、「ワクワクドキドキにまさるものはない。みんなもそれを見つけて一歩を踏み出してほしい!」とメッセージを送ってくれました。
「音楽でみんなとつながる術」を教えてくれたのは、音楽療法士でもある田口友美先生。「人の心と体と地域を、音楽でよりよくしたい!」と、障害のある人や高齢者、子ども、地域住民など、年齢や立場、障害の有無を越えて、みんなが一緒に参加するコミュニティ音楽療法を実践されています。
参加した子どもたちは、ペットボトルのふたと牛乳パックを使った手作り楽器づくりからスタート。田口先生の活動や研究に触れながら、音楽には、言葉だけでは伝えきれない気持ちを表したり、一緒に音を鳴らすことで人と人との間に新しいつながりを生み出したりする力にもなることを学びました。
そこで!最後はみんなでコンサート!!曲は「ドレミの歌」。世界共通語のドレミファ~を歌いながら、医大生による管楽器や弦楽器の演奏と一緒に、手作り楽器を鳴らして、会場は大盛り上がり。子ども、大学生、保護者(地域の人)、スタッフと、それまでそれぞれの立場でそこにいた人たちが、音楽を通して一緒に歌い、一緒に奏でる仲間となり、会場全体が一つの音楽をつくる場へと変わりました。まさに、音楽で一つになる時間と体験を共有した瞬間でした。

「あなたと私について考える学」を教えてくれたのは、哲学研究者の後藤正英先生。大人でさえ、哲学と聞くとなんだか難しそうなイメージです。「哲学とは、普段、私たちが当たり前だと思うことを改めて考え直してみる学問です。考え直す場合には、自分や他者との対話が必要になります」と後藤先生。例えば時間。退屈だと長く感じるし、楽しいと一瞬に感じてしまうもの。「はたして時間とは何なのか?」そんなふとした疑問をテーマに、自分の考えを深めていくのが哲学です。
子どもたちは、対話ワークに挑戦。「自分のことって自分だけで分かるのかな?」をテーマに、いろんなキーワード(ゲームが好き・負けず嫌い・おしゃべり・人見知りなど)の中から、自分に合う言葉を一つ選んで、その理由を隣の人に説明するというもの。他者との対話で、自分のことが見えてくることを体験してもらいました。また、授業では自分自身や他者、本との対話や出会いの意味を語る哲学者たちの言葉にも触れ、対話の大切さについて考えました。最後は、後藤先生が「これから中学生になると、周りとの違いが気になって、自分って何なんだと探す時期になる。落ち着かなくなったら、自分や周りの信頼できる人と対話したり、本を読んだりして乗り越えてほしい」とエールを送ってくれました。

「キミにだけ教える芸術の秘密学」 を教えてくれたのは、キュレーター(展覧会を作る人)でもある花田伸一先生です。そもそも芸術って何なんだろう?「芸術は、非日常を彩るもの。例えば、お祭りや楽しいイベントなど“うれしい非日常”に芸術があると盛り上げてくれるし、災害など“悲しい非日常”のときは、芸術が心を静めてくれる」と花田先生。芸術の歴史を遡ると、宗教社会では多くの人が仏像や仏画などを心のよりどころにして、宗教と芸術は密接な関係を持っていました。ところが、革命によって市民が主役の社会になると芸術が大きく変化。権威を表現する芸術から、自由を表現する芸術になったことで、世の中にさまざまなアートが広がっていきます。
例えば、音楽家ジョーン・ケージの「4分33秒」(1952年)。演奏者は音をださず、その場の音を聞くというもの。オノ・ヨーコが書いた「グレープフルーツ」(1964年)の一部を花田先生が読み上げると、多くの子どもたちが目をつぶって頭の中で詩の世界を想像していました。まさに観るだけじゃない、耳で楽しんだり、頭で考えたり、芸術は自由なんです。最後に花田先生から子どもたちへ「あなたが手に入れたい自由はなんですか?一生かけて問い続けてほしい」との宿題が出されました。

「ダジャレで教える物理学」 を教えてくれたのは、物理学者の橘基先生。どんなダジャレが飛び出すか、ワクワクな講座のテーマは「宇宙に浮かぶ巨大な素粒子の謎に迫れ!」。素粒子とは物質を構成する最小単位の粒子のことで、橘先生が「宇宙に浮かぶ巨大な謎の正体は、こちらです!」と見せてくれたのは、エビぞりした牛のキャラクター「そりうし」。(ダジャレです笑)
ちょこちょこ出てくるダジャレに会場もリラックスした様子で、授業中も子どもたちの元気な発言や笑い声が飛び交います。
もちろん、真面目に素粒子や宇宙についても教えてもらいました。どうやって星ができているのか、宇宙が素粒子からできていること、人間の身体も素粒子でできていること、教科書には載っていない最新の情報まで。「科学をするとはどういうことか。見えているものが全部本当のことだとは限らない。調べてみるまで分からないことが、世の中にはあることを知っていてほしい」と橘先生。みんなの前で、「佐賀大学を受験して、この授業を受けたいです!」と言ってくれた参加者も。ダジャレも素粒子も、子ども達の心をつかんだ講座になりました。

「佐賀の空き家、キミならどうする?学」を教えてくれたのは、有田や唐津のまちづくりにも関わっている宮原真美子先生。築100年の町屋(昔のまちで使われていた「店」と「住まい」が一緒になった建物)の、未来の使い方を考える授業です。現在の建物の状態を、現地の写真や資料をまじえながら解説。町屋の構造が分かりやすいように、手作りの骨組みの模型が用意されて子どもたちも興味津々です。
ワークとしてみんなで考えたのは、建物を補強するために加える壁の位置と枚数です。3つのパターンの中から答えを予想し、骨組みの模型に実際に壁を入れながら、建物の強さはどうなるか、室内の明るさ、今後どのように活用できるかなどを話し合いました。「どの方法でもそれぞれにメリット、デメリットがある。建物を今後どう活用したいか選ぶものが変わってくる」と宮原先生。古い建物は、その町の記憶や個性、歴史を教えてくれる大切な地域資源。壊すのではなく、地域でどう活かして残していくのか。将来を担う子どもたちにこそ、向き合ってもらいたい課題でした。

「佐賀のまちなか銅像制作術」を教えてくれたのは、彫刻家でもある徳安和博先生。佐賀市の街なかにある、佐賀の偉人たちの銅像を作った先生です。なかでも抜群の存在感を放っているのが、佐賀城公園にある佐賀藩10代藩主鍋島直正の銅像。その大きさはなんと4m20cm!思わず写真を撮りたくなる、堂々とした迫力のある銅像で、徳安先生がその制作過程を教えてくれました。
「全長1mのひな形を作ってから完成するまで、1年3カ月かかりました。作り方は、ひな形から断面図をとって、輪切りのように頭部や胸部、脚部など体を分割して作成していきます」と徳安先生。一番苦労したのが頭部の見え方。下から銅像の顔を見上げたときに一番よく見えるように試行錯誤し、頭部だけでなんと20通りも試作したそうです。その他、徳安先生が手掛けた銅像の制作秘話を教えてもらい、見落としがちな細部にまで作り手の想いや偉人たちのドラマが宿っていることに驚きました。
いよいよ大学生から小学生に戻る時間がやってきました。締めくくりは卒業式です。105名の参加者を代表して3名の“1日大学生”にステージ上で卒業証書を授与しました。ちなみに、代表者3名の選考基準は、授業中に率先して発言や質問をしてくれた子どもたち。参加した一人ひとりの学ぶ意欲があってこそ、授業がより豊かなものになりました。
卒業証書を手にした子どもたちは、みんな満足そうな表情です。佐賀市の小学6年生大橋愛未さんは、「大学の構内に入って授業を受けるなんて普通はできないので、いい経験になりました。印象的だったのは、3種類の香りをかいだ『ドキドキワクワクのコスメ科学』。脳がシャキッとするような香りや、眠たくなるようなほんわかするような香りがあって、色んな効果があるんだと知りました」。

今回は、夏休みに帰省している県外の小学生も対象で、徳島県から参加してくれた小学4年生の西村太志さんは、「『ダジャレで教える物理学』が面白かった!徳島の学校のクラスは9人しかいないから、たくさん人がいて楽しかったし、ニックネームが“ゆうちゃん”っていう小学6年生の女の子と友達になった。また会えるといいな」と元気いっぱいにこたえてくれました。
講師を務めていただいた7人の先生のほとんどが、小学生相手の授業は初めてのこと。「佐賀のまちなか銅像制作術」の徳安先生は、「真面目に話を聞いて、授業が終わったら作品の周りに集まって触ったり、意表をつくような質問をしてくれて子どもたちの反応が面白かった。講師陣の刺激にもなったと思うし、私もそれぞれの授業をアーカイブでみるのを楽しみにしています。今回のことが、子どもたちの将来のきっかけになってくれたら嬉しい」と感想を語ってくれました。
弘道館2のお目付け役で、今回も3つの授業でファシリテーターを務めた倉成英俊さんは、「“難しかった”という感想があるのは当然のこと。一つでも面白かった、楽しかった、分かった!があったなら大成功で、それを大事にしてほしい。今日の成果が今日出た子もいれば、頭の中にずっと残って10年後になるかもしれない。いつになるか分からないけれど、105粒の種を撒いたんだと思うと、これからが楽しみです」と期待を込めました。
10周年の記念イヤーだからこそできた、特別な一日。目を輝かせて大学生になった今回の体験が、小学生たちの胸の奥にしっかりと刻まれて、いつの日か自分が進む道を選ぶきっかけや原動力になってくれたら嬉しいです。


とくどめよしひろです。肌のバリア機能や、化粧品の成分が肌にどう届くかを研究しています。薬剤師の資格を持ち、化粧品会社の研究所で、化粧品づくりにも関わってきました。今回の講座では、香りをテーマに、においを感じるしくみや、香りが気持ちに与えるふしぎを、実験やお話を通して楽しく紹介します。いつも何気なく感じている香りの中にも、たくさんの科学があることを知ってもらえたらうれしいです。

音楽療法士。そして、保健師であり、公認心理師。つまり、「人の心と体と地域を、音楽でよりよくしたい」人。特別支援学校の教員時代に「音楽は“上手い人のもの”ではなく、“誰かと一緒に生きるためのもの”なのでは?」と考えるようになる。現在は、障害のある人も、高齢者も、子どもも、地域住民も一緒に参加するコミュニティ音楽療法を各地で実践し、「知らない人同士を音楽で仲良くできるか」挑戦中。数百人規模のセッションでは、会場全体がひとつの巨大な合奏空間になる。現在「音楽で、人と地域はつながれるのか?」を本気で研究している。佐賀県音楽療法士会会長。地域と大学と福祉とアートの境界を、今日も音楽で越境中。

私は、「人はどうすれば、違いを認め合いながら安心して一緒に生きていけるのか」という問いについて、ヨーロッパの哲学を手がかりにして考えています。哲学に関心をもつようになったきっかけの一つは、高校時代の経験です。不登校の時期があり、当時はネットもないので、悶々としながら様々な本を読みました。また、予備校の現代文の先生が話してくれる現代思想や文学の話が面白くて、その影響で「考えること」自体に興味をもつようになりました。人は、自分自身のことも、一人だけではなかなか分からないものです。身近な人と話したり、昔の人が書いた本を読んだりすることで、少しずつ自分の姿が見えてきます。そうした経験が積み重なって、今の研究につながっています。

キュレーター。福岡県生。小学生のとき藤子不二雄『まんが道』に「芸術だ!」と感動。中学生のとき手塚治虫『火の鳥』に「芸術だ!」と感動。高校生のときロック音楽に「芸術だ!」と感動。大学生のとき浮世絵版画に「芸術だ!」と感動。美術館で働きだして現代アートに「芸術だ!」と感動。今は佐賀大学でこれからどんな芸術を生み出せるか学生たちと考え試しつづける感動の日々。

物理学者。兵庫県生まれ。高校で物理が苦手だったにもかかわらず、物理学の道を志す。大学時代はバックパッカーで、世界各地を旅する。ニュートリノ実験の研究室を志願するも断られ、仕方なく素粒子理論の道へ。物質の究極の姿である素粒子を世に広めたいという想いから、折紙作家の妻との共同プロジェクト(Mt.MK名義)で、牛がエビ反りしたキャラクター「そりうし(SORIUSHI)」を生み出す。著書に『先生、物理っておもしろいんですか?』(共著、丸善出版)など。

建築計画学を専門に、建物と人の暮らしの関係を研究しながら、まちづくりの実践にも取り組んでいます。私自身、佐賀県有田町で古民家を購入し、自宅として改修した経験をきっかけに、古い木造建物を現代の暮らしや用途に合わせて再生するプロジェクトに関わるようになりました。古い建物には、そのまちの記憶や個性がつまっています。木造の建物は、どんなに傷んでいても、構造や素材の特徴を丁寧に読み取り、正しい知識と工夫を重ねることで、新たな建物に生まれ変わります。今回の授業では、実際のほとんど廃墟のような空き家を例に、「皆さんならどうするか」を一緒に考えていきたいと思います。

大学教員ときどき彫刻家。長崎県生まれ。田舎過ぎて何もなく、幼い時の遊びは自分で工夫した。小学生の頃は公務員志望。中学生の時は機械工作が好きで、エンジニアになるべく高校は理系にした。高校の部活で彫刻と出会い、幼少期の快感を思い出したことで、高3から美術の先生に進路変更。大学で美術を学ぶ中、理屈抜きにカッコいい彫刻と出会い、「自分もやるぞ」と決心して現在に至る。今は、勘で構造計算しながら彫刻と格闘し、公務員的に暮らしている。心底カッコいい作品ができれば幼いころからの夢はほぼ達成。