23時間目

超抜粋版

  • 講師:笠原徹先生(株式会社ハレノヒ 代表取締役)
  • 日時:2025年1月26日(日)
  • 会場:願正寺

講座レポート

23時間目の講座のテーマは「見つける写真術」。今回の講師は、佐賀市の写真館・ハレノヒの代表で、ウエディング、家族写真、広告など国内外で撮影を行っている笠原徹さんです。ただの写真のプロではなく、佐賀県をPRした動画「SA GA LAND(サガランド)」の制作や、世界11カ国で賞を受賞した長編映画「つ。」のプロデュース、本を出版するなど多彩な顔を持っています。

受講生は中学生から社会人までの22名。会場はなんと、佐賀市の街なかにあるお寺「願正寺」です。思わず背筋がピンとのびるような厳かな空間ですが、実は本家本元の弘道館とゆかりのある場所でもあります。弘道館が行っていた教育の評判を聞いた岩倉具視は、自分の子どもたちを、京都から弘道館に留学させており、そのときに子どもたちが寄宿舎としていたのが願正寺でした。住職さんからも当時のエピソードを教えていただき、長い歴史を持つこの場所で始まる講座にワクワク感が高まります。

今回は、講座の開始と同時に宿題が与えられるという、いつもとはちょっと違う展開!受講生たちにワークショップ用の写真を撮ってもらうためで、早速お題の発表です。

お題 「写真1枚または2枚で表現してください」

願正寺周辺の人、モノ、風景など

A 良いところを見つけて、それを誰かに伝える写真
B 自分の好きなものを誰かに伝える写真

制限時間は30分で、パターンA・BどちらでもOK。受講生たちはスマホ片手に、思い思いの写真を撮影するために街へ繰り出していきました。笠原先生は、「ワクワクしながら誰かに伝えたいな、とか誰かを想いながら撮ってきて欲しい」とアドバイス。ちなみに、パターンAは街なかで良いものを“発見”して撮影するイメージで、パターンBは自分の内側にある“推し”を伝えるようなイメージ。さあ、みんながどんな写真を撮ってくるか楽しみです。

全員が会場に戻ったところで、講座を再開。それと同時にYouTubeでもオンライン配信されました。そんな笠原先生が次に出したお題は、撮影した写真を文章で説明すること。受講生たちはたくさん撮影した写真の中から、とっておきの1枚または2枚をセレクトし、何に感動して、どこがいいと思ったのかなど、自分なりの言葉でまとめていきました。

一人ひとりの写真やコメントは、目の前のモニターに映し出してみんなで共有します。笠原先生は良かった点を褒めつつ、気づいたことを次々にアドバイス。ポイントは、自分の言葉で文章化したものが、ちゃんと写真に描写されているかどうか。「(電線や標識など)自分が伝えたいことと関係なければ排除する」、「建物の良さをみせたいとき、斜めになっていることがノイズになることも。水平垂直を正確に」など、写真の言葉に寄り添ったアドバイスが印象的でした。もちろん、「写真の4隅に質感の違うものを持ってくると写真が安定する」、「広角で下からあおるようにとるとダイナミックさが表現できる」など、技術的なアドバイスも盛り込まれていました。

モニターに映し出された受講生たちの写真は、個性豊かなものばかり。何気ない街なかの風景を切り取ったものもあれば、駐車場の柵にあいた穴から覗いた風景、無造作に積み重ねられた箱など。笠原先生やファシリテーターの倉成英俊さんに、「面白い!」と言わせるユニークなものもありました。

 

全員分を見終わったところで、笠原先生が写真を撮る際の三箇条「感動せよ」、「整えよ」、「オモイを込めよ」を伝授。「感動は見つけることができる。感動を分かち合えるように情報を整理し、相手のことを思いやった写真になっているかが大事。写真はコミュニケーションツールです」。アドバイスを受けた受講生たちの写真は、はたしてどう変わるのか?再度街なかに繰り出して撮影です。笠原先生と倉成さんも、街なかをぶらり歩きながら、受講生たちが撮影する様子をレポートしてくれました。

みんなの写真とコメントをモニターで再び共有します。次々と映し出される写真は、ダイナミックな構図になっていたり、水平垂直に気を付けてすっきり整えられていたり、前作を踏襲したシリーズものだったり…。「みなさんとても素直。ちゃんと自分に軸があって“好き“がはっきりしている人は、それが伝わる写真になっている」と、笠原先生からお褒めの言葉の連続でした。ぜひとも、一人ひとりの“好き”が伝わってくる写真と言葉をアーカイブでご覧ください。

最後は恒例の佐賀弁メッセージです。笠原先生は千葉県出身で、佐賀に移住して21年目。「エセ佐賀弁ですが笑」と前置きをしたうえで、「よかことば見つけて、世界を広げんね」とメッセージを送ってくれました。「誰かに与えられるのではなく、いいことや感動は自分で見つけて、世界を広げてほしい」という想いが込められています。

三養基高校1年の古川まぐさんは、笠原先生や倉成さんが「面白い!」と太鼓判を押した、積み上げられた箱の写真を撮った受講生です。「ただ自分が好きなものを撮っただけなのに、周りの新鮮な反応に驚いた。写真を他の人に見せる機会ってないので、自分というのを写真を通して伝えることができたかも。この講座をきっかけに写真の奥深さを知れたし、今まで触れていなかった世界が広がるきっかけになりました」と、キラキラとした目で感想を語ってくれました。

講座を終えた笠原先生は、「佐賀の若者は活力があって、原石のような感じ」、「テクニックや構図とかで悩むことも多いだろうけど、その前の段階が大事だということ。今はピンと来なくても、“あの時聞いた話って実は大事だったんじゃないかな”と、将来どこかで結びついてくれたら嬉しい」と感想を語ってくれました。

みんなの写真を通して分かったのは、同じ風景やモノを見ているはずなのに、一人ひとりの“好き”がこんなにも違うということ。写真だけでなく、言葉だけでもなく、写真と言葉が組み合わさることで、こんなにも想いが伝わりやすくなるんだということ。情報があふれる世の中だからこそ、写真と言葉を操って自分の想いが伝えられれば、生きていく強みにきっとなるはずです。

 

講師プロフィール

笠原 徹(かさはら・とおる)

笠原 徹(かさはら・とおる)

1975年千葉県生まれ。大阪芸術大学写真学科卒業。
佐賀県に移住後、2015年に築100年の古民家をリノベーションした写真館「ハレノヒ柳町フォトスタジオ」をオープン。
家族写真、ウエディング、商品広告撮影など国内外でマルチに撮影を行う。写真館でありながら地域活性化をテーマにしたハレノヒの取り組みは、これまでの写真業界にはなかった斬新な活動として多くのメディアに取り上げられている。
2020年には東京と千葉に店舗をオープン、2022年には長編映画「つ。」のプロデュースを行い多くの映画祭で賞を獲得するなど活動の幅をさらに広げている。
著書に「地方でクリエイティブな仕事をする」(玄光社・2020年)共同著書に「ウエディング・フォト マスターBOOK」(玄光社・2017年)などがある。

 

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